素敵な女研究部・アメリカ編

首都圏でアメリカ生活を満喫しつつ、いい女を目指すブログ。

もうすぐ20になるはずだった君

週末は、上の階のジャマイカ人家族がアパートの裏の駐車場でパーティをすると言うので、ご近所さんはみんな金曜の夜から路駐に切り替えていた。こちらのジャマイカ人、3階と4階の2フロア分を所有しているようで、何人住んでいるのかもよくわからないが、子供もいるのか、たまに大騒ぎで上の階でドタバタとパーティをしている。天井が落ちてきたらどうしよう、と思うくらい元気だ。

 

そして日曜の朝、キックボクシングの朝練で起きてみると、もう既にパーティの準備は始まっていた。机を出し、テントを張り、グリル台が出て、パーティの中心になる人の名前なのか、Tで始まる人の名前が、風船でできたアルファベットでつづられている。

 

朝からやる気満々だな〜。。。

 

この日私たち夫婦は参加するつもりはなかった。でも午後になって、隣の隣に住んでいる夫氏の友達がやってきて、このパーティが開かれる理由を教えてくれ、急遽予定を変えて、少し高いウィスキーやらビールをみんなで買い出しに行って、参加することにした。

 

パーティが開かれた理由

パーティは、上の階の息子君が、20歳になるはずだった誕生日のお祝いだった。そして彼は、うちから車で20分くらいのところで、2月に銃で亡くなったんだという。

 

在米20年だけど、身近な人、自分の周りの人で、銃で亡くなった人は初めてで、ちょっとショックだった。ここは戸の鍵を閉め忘れても大丈夫なくらい安全で平和な地域だし、2月以来、特に上の階から聞こえてくる物音からは一切そんな雰囲気は感じられず、寝耳に水でもあった。

 

夕方、続々と車が集まり始め、路上は路駐の車でいっぱいになり、うちの駐車場はジャマイカ人で溢れかえった。100人以上はいたと思う。2〜4歳くらいの幼児が4−5人、その家族、きっと息子くんの友達だったと思われる20歳前後の若者がわんさか、それからおばあちゃんまで。そして近所のジャマイカ人でない私たちもみんな出てきた。

 

左奥のテントには大量のジャマイカ料理。

ナプキンやお皿には「お誕生日おめでとう、T!」と書いてある。色調は白と黒と金色でまとめてあった。

手前右のグリルではお父さんがひたすら肉と魚を焼き続け、横でお母さんがそれを助けていた。その横には大量のハードリカーやらビールやら。お父さんはシェフなのだそうだ。二人とも、マスクで隠れて表情はわかりにくいけれど、肉を焼くことに集中しているようで、弱々しい笑顔をチラッと見たかもしれない。

 

そして右奥には、彼の赤ちゃんだった時の写真から大人になった時の写真に天使の輪と黒い羽がデザインされた大きなスクリーンと風船が大量にあり、その前で写真を撮れるフォトブースになっていた。左手前では、彼の写真が入ったペットボトル、キャンディ、チョコレートなど。そしてお父さんとお母さんを含め、ジャマイカ人は何人もの人が、彼の写真や彼の誕生日の入ったTシャツやパンツを着ている。彼の写真が入ったグッズ、全部で30種類くらいはあるんじゃないかしら。

 

テントの手前には、Tくんの等身大の写真がボードになって立っていた。

いかにも悪そうなガキ、というより、頑張って悪ぶってる小柄なガキ、くらいの感じ。

そういえば、この子、何回か見かけたかもしれない。

 

そしてみんなで飲み食いし、ケーキも配られた。途中で若者は車を出してきてスピーカー代わりにしてクラブ音楽をかけ始め、若い女の子たちは踊り出した。ボディスーツを着ている子もいるし、短パンにスニーカーの女子もいればワンピースの子も。あんたたち、絶対男子を意識した格好をしてきたわね。お姉様にはすぐわかるわよ。髪を朱色に近い鮮やかな赤に染めた子もいた。近所の人たちも結構遅くまで帰らず、パーティは夜中まで続いた。

 

無言の祈り

うちの夫氏はウィスキーやお酒をTくんのお父さんに渡し、私たちはご近所同士でこのアパートの過去の住民やらうちの隣のアパートは誰が住んでも何か事件があるという話で盛り上がったが、結局この日、聞こえる限り、誰一人としてTくんの話はしなかった。多分誰も、お父さんに「御愁傷様です」というような声はかけなかったと思う。彼の写真がなかったら、多分、普通の大成功した誕生日パーティにしか見えなかったはずだ。

 

涙を流さず、しめやかさはなく、みんなの格好もまったくお葬式らしくない、死者を見送る会。それなのに、誰一人Tくんの話をしなくても、そこにいる全員が、20歳になれなかった彼、もうこの世にいない彼のことを思っていることがわかる。無言なのに、いやむしろ無言だから、心にそれがズン…と重く伝わってくる。

 

「きっと彼の家族は、彼のことを忘れないで欲しかったんだろう」と夫氏。

 

彼のことをあんまり知らない近所の人たちも含めて、たくさんの人が今日、彼の冥福を祈っていた。1−2回顔をちらっと見ただけだけど、私も今日のことは忘れないだろう。

 

こういう死者の弔い方もあるのだな・・・

  

聞けば、彼の家族は1週間前から肉をマリネし、冷凍し、それを解凍して朝から準備してきたらしい。グリル料理は本当に美味しかった。お父さんがというより、家族がみんなでやろうと企画したそうだ。

 

結局、彼がなぜ銃で命を落とすことになったのかはわからない。少し調べたら、銃で撃たれた翌日に路上で見つかり、犯人は捕まっておらず、1万ドルの賞金が出ていた。アメリカでは銃の殺人事件くらいではローカルニュースにすらならないのが悲しい。

 

Tくん、どうぞ安らかに。

 

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徒歩3分で、小川に沿ったトレイルがあり、自然が溢れている。あと1ヶ月もすれば蛍が飛び交うだろう。週末は歩行者天国になり、本当に平和な地域。


 

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